あいみょん

 

 今年デビュー五周年を迎えたシンガーソングライター・あいみょんが地元、兵庫県西宮市に帰ってきた。ワンマンでの弾き語りコンサートを開催するのは、甲子園の誇る長い歴史のなかで初めての快挙である。なんでも、彼女の実家は「屋上から光る球場が見える」ほど、甲子園のすぐそばにあり、幼い頃にはしばしば父と阪神戦を見に行ったり、西宮市の小・中学生が参加する運動会で実際に甲子園のグラウンドに立つ機会まであったそうだ。甲子園はあいみょんにとって特別な思い出の地なのである。

 そんな地でライブを開催するにあたり、あいみょんは「インディーズ時代から、そこを目指して頑張るぞという感覚ではなかったかもしれないが、シンガーソングライターを続けていく上で、道の途中には甲子園球場というものがあるというイメージだった」と語っている。また『サーチライト』というタイトルは、「一人でステージに立つから、ピンスポットライトを私だけに当ててほしい」という思いで付けたという。
 来る当日、広い甲子園球場を埋めつくした4万5000人ものファンが、一回りも二回りも大きくなって地元へ帰ってきたあいみょんを割れんばかりの拍手で迎えた。

 

 

 

 このライブの特筆すべき点は、やはり「甲子園球場で開催したこと」である。これまでホールツアーやアリーナツアー、フェスや歌謡祭、紅白歌合戦など、数多のステージを成功させてきたあいみょんだが、シンガーソングライターを夢に見ながら過ごした地元、西宮市に佇む甲子園球場での公演はこれまでにない特別な思いが込められたものであっただろう。実際にライブ前のインタビューで彼女はこのライブについて「自分が選んできた道や選択が間違っていなかったと思える日にしたい」と語っている。つまり彼女にとって、甲子園でライブをすることは、夢の「答え合わせ」なのである。


 この西宮市で過ごした自身の学生時代を「学校が苦手で、まわりの友達が将来の夢について話していても、自分にはなにもないって悲しかった」と振り返る彼女が「国民的シンガーソングライター・あいみょん」となってここに帰ってきたことにはやはり心揺さぶられるものがある。4万5000人が放つライトで満杯に照らされた球場の正しくど真ん中で、このライブのために書き下ろしたという新曲『サーチライト』が披露されたときはどうしようもなく胸が熱くなった。「自分にはなにもない」と思うことはむしろ「何かになれる証拠」であることを体現し、ここに4万5000もの光を集めたあいみょんはまさに西宮市のスーパースターである。

 

 個人的な話となるが、コロナ禍でなかなかライブに足を運べず、いつも画面の中の世界だった彼女の音楽が、ひたすらイヤホンで聴くしかなかった彼女の音楽が、制限されることばかりで不安定になってしまった心を何度も救ってくれた彼女の音楽が、すぐ目の前にあって、画面もイヤホンも何も通さずに直接耳に聴こえるところにあるということは、外に出れずずっと家に引きこっていた頃には考えられなかったことで、この上なく胸がいっぱいになった。


 セットリストも「地元でのライブ」に寄り添ったものとなっていた。特に中学生の頃、初めてギターを持ったときに作ったという『分かってくれよ』から最新曲『サーチライト』の流れには胸が熱くなった。石崎ひゅーい氏のお言葉を拝借すれば、まさに「あいみょんの歴史を全部覗き見しているようなセットリスト」だった。学校を中退し、先生や友人に夢を笑われた高校時代、誰も足を止めない路上ライブ、将来への不安や周囲への苛立ち、自分に自信を持てない苦しみ、夢を否定される苦しみをあいみょんは知っている。「苦しい」を知っている人は、やさしい言葉を紡ぎ、「苦しい」を抱える人の胸に届くのは、「苦しい」を知っている人の声なのだと実感した。


 行き場のない苦しみに苛まれた頃に作られた、ライブのときにのみ特別に披露される『tower of the sun』という楽曲の冒頭部分、『私があの人みたいにチヤホヤされる 天才やったら良かったのにな 良くも 悪くも 人生楽しいって思えるかもしれない そう言ったって私は私でしかないから ただひたすらに私として私を生きるだけ』という歌詞。苦しい人が自分の抱える苦しさに否定も肯定もせず、ただ苦しいを苦しいままに作ったものは、何よりも苦しくて、何よりも強いものであるのかもしれない。

 

 あいみょんが上京して初めて作った曲は『君はロックを聴かない』である。「この曲が聴かれなかったら西宮に帰ろうと思った」と後に本人が語るほど相当な覚悟で作られた。今では彼女の代表曲となった。そんな最も強い思い入れのある曲が最後に披露された。そのラストのサビであいみょんは観客に「みんなも一緒に歌って」と投げかけた。しかし声出しの応援は禁止されており、声を出す人はいなかった。「声を出したいけど出せない」という口惜しい思いが会場を覆う中、あいみょんは目を瞑って演奏を続けた。そして心が満たされたかのように幸せそうに微笑んだ。彼女の耳には、あるはずのない大勢の歌声、観客が心の中で響かせる精一杯の歌声がたしかに聴こえたのだろう。音というものは、ただ耳に聞こえるだけではない。心の中で鳴るものであるのかもしれない。以前、『映像と表現』の授業で映像学部の品田先生が「音は感性や知識からイメージされる」とおっしゃっていた。コロナウイルスによりライブやコンサートで声を出すことが禁じられ、思うように楽しめないところもあるが、その代償に私たちは「『心の中で鳴る音』を聴き出す感性」を手に入れたのである。

ふたり

 

 

 田中と山田。今日は仲直りのしるしにふたりで映画を観に来た。さっそくなにやら揉めながら座席を探している。

 

「ポップコーンはうすしおに決まってます。水と砂糖を熱しただけの甘味料にお金を払うなんて邪道でしかない」
「山田さん、それキャラメルっていいます」
「知ってる」
「山田さん、うすしおなんてつまらないです。つまらないのはあなたの名前だけにしてください」
「っな!君の名前もたいがいだろう!僕の名前は全国苗字ランキング・・・」
「あっ!あそこですね、席」

田中はぶつぶつと小言を言う山田の手を引いて、席に座らせた。


「いや、僕の苗字は全国苗字ランキング・・・」
「あ、もうすぐ予告始まりますね」
ふんと山田はキャラメルポップコーンを口に投げ入れる。田中は思わず少し笑う。


 予告が始まった。なにやら最近話題の海外アニメが映画化されるらしい。
「僕、こないだこのアニメの実写版を吹き替えで観ました。めちゃくちゃ面白かったな〜」
「なっ!なっ・・・、田中くん、ちょっと待ってくれ。君は今この世で一番恐ろしいことを言っている」
きょとんとする田中を尻目に山田は続ける。
「まずね、アニメの実写版をその原作を観る前に観ちゃだめなんだ。それも吹き替えなんて・・・あまりにも邪道がすぎる」
「そんなにだめですか」
田中は眉をひそめた。


「僕は今、君がとても恐ろしい」
「僕もあなたがすごく恐ろしいです」
「なぜ君が僕を恐ろしいと思うんだ」
「いや、山田さん、さっきからキャラメルポップコーンのキャラメルがいっぱいついたやつばっか食べてますからね」
山田は我に返るように手を止める。


 予告の前にCMが流れた。なにやら社長さんが自社の高機能便器とやらをプレゼンしている。
「映画を観る直前に便器を見せるなんてどうなっているんだ。尿意しか催さないじゃないか」
「山田さん、その発言が尿意を催します」
「・・・すまない」
「いえ」
黙り込む田中と山田。


「てゆか、なんか」

「なんですか」

「いや、あのなんか、山田さんって映画中にトイレに行きたくなったらどうします?」
「映画中にトイレに行くなんてそんな邪道僕はしない」
「なるほど。僕は行く派です」
「すごいな君はさっきから」
「なにがですか」
「君は世界中の邪道を背負っているのかい」
「世界中の邪道背負ってません」
田中は続けた。


「トイレ我慢したら映画に集中できなくなるじゃないですか」
「田中くん、君はなにを言っているんだ。君がトイレに行っている間に主人公とヒロインが入れ替わったり、隕石が落ちたらどうするんだ」
「そんなのタイミング見計らって行けば大丈夫じゃないですか」
「映画のタイミングを見計るなんてそんなこと誰にもできない。もし見計れるとしたら、その映画は相当つまらないね。君の名前くらい」
「ッッなんなんですか!僕の苗字は全国苗字ランキング・・・」
田中はハッとなった。山田はにやりと笑った。


 田中はわざとらしく咳払いをして続けた。
「とにかく僕はトイレ行く派です」
「ありえないね」
「トイレ我慢しながら見たらもうその映画の感想『トイレ』でしかなくなりますからね」
「ありえないね」
「ありえますね」
田中と山田はため息をつく。


「どうやら僕と君は一生分かり合えないみたいだ。いや、もはや一生分かり合えないから僕と君なのかもしれない」
「そうですね。僕と山田さんが分かり合えた日にはきっと主人公とヒロインが入れ替わって、隕石が落ちますね」


 そうこう揉めているうちに予告が終わった。照明は消え、辺りは真っ暗になった。青色の背景をした画面の中央に『東宝』という文字が映る。いよいよ映画が始まるようだ。
 すると、そのとき、おじさんがバタバタと一人駆け込んできて、ふたりの後ろの席にバタンと座った。
「ションベン行っといてよかったぁぁぁぁ」
おじさんは言う。


 田中と山田は思わず顔を合わせる。
「なんか、僕は君とはずっとこういう仲でいたいかもしれない」
「僕もです」
映画が始まった。

僕は「うつ」だ。世間には、こころの病気として知られている。僕はみんなに避けられている。みんな、僕に出逢わないように生きている。僕をやっつけるためのお医者さんがいる。僕を対処するための薬がある。


僕はかつて、高校生の君にひどくまとわりついてしまった。僕に出くわした途端、君の目の前は真っ暗になった。君は、頑張りたいのに頑張れなくなった。当たり前にできていたことができなくなった。僕は君のことをどうしようもなく苦しめてしまった。


僕は、誰かと出逢うたびに、僕なんていなければいいのにと思う。みんなを苦しめるだけの僕に一体何の価値があるのだろうと思う。


だけど、君。もしかすると、君は、苦しいと思うことで生きているのかもしれない。「苦しい」を知っているから、「嬉しい」や「楽しい」を感じられて、「生きよう」と思えるのかもしれない。苦しいから、「大切」に気づくことができるのかもしれない。「大切」を大切にしようと思えるのかもしれない。僕に出逢うから、誰かのやさしさに触れられるのかもしれない。僕のことをよく知っているから、君はやさしくなれるのかもしれない。


だから、君がやさしくなれたとき、僕は、僕がここにいる意味を見出すことができる。ここにいてもいいのかなって少しだけ思うことができる。君と僕は、そんな関係でできているんだと思うんだよ。これからも君のやさしさを作るほんのひと部分が僕だったら、嬉しい。

朝、目が覚める。時計の針は五時を指している。予定より早く目が覚めた。あと一時間眠れる。ラッキー。


目が覚める。六時半。三十分寝坊。この世に二度寝に勝てる人なんているのだろうか。すぐに着替えて家を出る。


バスはもう間に合わないだろうか。半ば諦めながらバス停に着くと、ちょうどバスが来た。ラッキー。


学校に着く。一限目が始まる。困った。筆箱を忘れた。隣の席の子から声をかけられる。以前から話してみたいと思っていた子だ。シャーペンと消しゴムを貸してくれた。そして、友達になった。めちゃくちゃ嬉しい。


昼ごはんを食べて、次は、三時のおやつ。シュークリームのクリームをひとつもこぼさず食べられた。ラッキー。


そのまま、四限目まで授業を受けた。


帰り道。バスに乗る。ひと席だけ席が空いていたから座った。ラッキー。次のバス停で、おばあさんが乗ってきた。どうぞ、と席を譲る。「ありがとうね、よかったら、と袋を渡された。中にはゆずが五つ入っていた。胸がポカポカする。窓の外を見ると、月がやさしくほほ笑みかけてくれる。


家に着く。今日の夜ご飯は、大好きなクリームシチューだ。今日の金曜ロードショーは、大好きなホーム・アローンだ。今日のお風呂は、ゆず風呂だ。最後は、あたたまった体をお布団に委ねる。


もし、一日に呼び名があるとしたら、忘れ物をしなかった日よりも、バスの席に座れた日よりも、叙々苑で焼肉を食べた日よりも、今日みたいな一日を「いい一日」だと呼びたい。

無題3

 

 

寒い。白い吐息にどこか胸が踊る。猫がこたつで丸くなるには、もってこいの季節だ。恋人とひとつのマフラーを一緒に巻くには、もってこいの季節だ。
君のことを忘れるには、僕の心はまだ寒すぎたのかもしれない。

 

 

 

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苦しかった。しんどかった。さみしかった。一年がもうすぐ終わる。もやもやと僕を曇らすこの気持ちを弱りきったこの体に抱えたまま、年を越すわけにはいかなかった。

「今は、この気持ちを忘れようと頑張っているところだけど、でも、だけど、もし、また、だめだったら、また、好きになってもいいかな」

そんな中途半端な決意とちっぽけな妥協の手紙を君に送った。

 

 

 

 

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年が明けた。僕の心と体はまだうつが続いている。今は自分のことで頭がいっぱいだ。だから、頭の中が「自分」だけで埋まっている間にもういっそ、君のことを忘れてしまおう。

そう思っていた。だけど、僕のうつが治れば治るほど、少しずつ僕の心に光が差せば差すほど、君もまた麗しく見えた。

 

手紙を送って一ヶ月も経たないうちに、僕はまた我慢できなくなった。

電話をかけてしまった。僕はなんて弱いのだ、なんて悪いのだ、そんな薄っぺらな自己嫌悪は君の声ですぐにかき消される。

君は優しいから、どんなときだって、僕に向き合ってくれる。そして、その優しさに僕はどこまでも甘えている。考えないといけないことも、君の優しさに触れると、まぁいっか、どうにかなるか、ってそう思ってしまう。
もしかしたら、君のその優しさは、僕にとっては、本当の優しさではないのかもしれない。
だからたぶん、君が優しくなくなったら、僕は強くなる。君が僕に優しくすればするほど、僕はどんどん弱くなっていく。
だけど、もし君の優しさに触れられないとしたら、僕は死ぬほど苦しくなる。

 

 

 

 

 

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二月、冬の寒さがいよいよ本格的になってきた。「今日はこの冬一番の寒さです」。天気予報士さんは、この言葉を毎日言っている気がする。

 

君と一緒に勉強をした。君が僕の家に来た。楽しかった。嬉しかった。幸せは一瞬だ。帰り道、駅までの道、横断歩道、赤信号、立ち止まる、手を繋いだ。生まれてはじめて、青信号が嫌いになった。

 

三月、寒さが和らいできた。「今日はこの冬一番の寒さです」。天気予報士さんのこの言葉も気づけば、もう聞かなくなっている。

 

君とまた一緒に勉強をした。たしかこの日は、めちゃくちゃ笑ったと思う。なにがそんなに面白かったのかは、よく覚えていないけど、たくさん笑ったと思う。それだけで十分だった。心がいっぱいになったと思う。

 

 

 

 

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三年生になった。またクラスが離れた。だけど、それでよかった。それがよかった。近くにいればいるほど、苦しくなるから。気持ちがどんどん大きくなって、苦しくなるから。君に執着する理由なんて、もうとっくに失くしている。好き、好き、好きすぎて、おかしくなる。だけど、もしかしたら、好きとか好きじゃないとか、そんなものはもうとっくに越えてしまっているのかもしれない。もうそんな次元じゃない。

 

五月、君の家へ行った。君の部屋で過ごした。スマートフォンで一緒に動画を見る。たまに体が触れる。帰り道、「帰ったら電話しよう」、僕は言う。「明日の夜ならいいよ」、君は言う。未来の幸せが決定する。バスに乗る前、少しだけ手を繋いだ。あの日、僕は幸せだったと思う。宝くじが当たった人くらい、幸せだったと思う。

 

 

 

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三年生になって初めての定期試験がもう終わる。僕の心の調子は良くない。いつものことだ。頭の中がいっぱいになる。友達のこととか、部活のこととか、勉強のこととか、進路のこととか、君のこととか、君のこととか、君のこととか。君のことで苦しむのに、その苦しみを消してくれるのはいつも君だ。君と言葉を交わすだけで、君がただ微笑んでくれるだけで、苦しみが消える。

 

僕は時々、自分を見失う。そんなときに、いつも君は僕を見つけ出してくれる。僕にとって君はその繰り返しで出来ているんだと思う。

 

 

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何度も電話をした。夜通し、何時間も。たわいもない話を、夜明けまで。終わりはいつも、日の出の頃。

 

何度も写真を撮った。一緒に勉強をしたとき、文化祭、体育大会。心のシャッターは、いつも、ずっと、あたたかかった。

 

何度も一緒に帰った。わざとゆっくり歩いたりした。わざと遠回りしたりした。駅の改札を通ると、すぐにさよなら。僕はそれが嫌だから、そのまま立ち止まってまた話す。

 

何度も語り明かした。放課後、人影のない化学室の横の通り、たくさん明かしてくれた。やっぱり電話は苦手、僕への接し方が分からない、話し方が分からない、思わせぶりな態度をとっていたかも、ごめん、ごめん、ごめん。君は何度もそう言うけど、そんなの、僕だって、ごめん、ごめん、ごめん。電話しようって何度も誘ってたのも、話しづらくさせてたのも、困らせてたのも、全部、僕がだめだからだよ。思わせぶりな態度って、それは君の優しさでしょ。ごめんっていうのも、君が優しいからでしょ。その優しさに甘える僕が、全部悪いんだよ。

 

何度も告白した。じっとただ心の中で想うだけでは、おかしくなるくらい、好きなんだ。君からの返事は決まっている。「友達のままでいたい」。

僕だって分かっている。難しさを分かっている。もう何でもいいから、何でもいいよ。
君にとって僕がどんな人でもいいから、ずっとそばにいてほしい。ずっと、僕の日常に君がいるだけで、それだけで楽になって、目の前が明るくなるから。

 

君が近くにいてくれるだけで、すごく嬉しい。難しいことばかりだけど、解けない問題ばかりだけど、僕はただ、君に優しくしたい、君を笑わせたい、君の前でかっこつけたい、だけだ。

 

 

 

 

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ちょっと、これから、ちょっと、怖い話になるのだけれど、秋に、山梨に住む四人家族の家が全焼して、親夫婦が亡くなったって事件があった。犯人は、四人家族の長女の知人の十九歳の少年だった。事件の動機について、彼は、「長女に一方的に好意を抱いていたが、思い通りにならず家に侵入した」って。すごく怖かった。許せないと思った。絶対に許せないと思った。

 

でも、少しだけ、本当にほんの少しだけ、彼に同情する自分がいた。そんなに、おかしくなるほど、人を殺してしまうほど、家に火を放ってしまうほど、相手の全部を壊してしまいたくなるほど、人を好きになる気持ち、ちょっとだけ、分かる。だけど、そんなふうに思う自分が、何よりも、一番許せなかった。最悪だった。

 

あと、もう三年くらい前かな。姉の知人が地元のショッピングモールの屋上から飛び降りて死んだ。彼がそこまで追い込まれたのは、同棲していた恋人と別れたのが原因だった。当時の僕は、どうしてそんなことで死ねるんだ、って彼の気持ちが全く理解できなかった。だけど、だけど、今なら分かる気がする。好きな人が目の前からいなくなるなんて、死んだほうがましだ。彼の気持ちが、心の底で理解できる気がしている。

 

ヤングスキニーというバンドに、「世界が僕を嫌いになっても」っていう曲がある。その曲のサビの冒頭に「君のためなら死んでもいいかな」って歌詞がある。僕は最近、この歌詞と同じように考えるようになった。君に相手にしてもらえないのなら、この想いが実らないのなら、いっそ消えたほうがましだ。君のためなら死んでもいいかな、って思うようになった。

なんか、恋ってやけくそなんかじゃなくて、なんか、恋って残酷だ。

 

 

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きっと、何年経っても思い出すんだ。好きだということを、思い出すんだ。どうしようもなく好きで好きで仕方がないことを、思い出すんだ。もうどうしようもないことを、思い出すんだ。


嫌いなところのほうが多い。だけど、そんなこと忘れるくらい、好きなところがたくさんあるんだ。

 

君が笑ってくれるなら、チャンスで三振しても、テストで0点取っても、何とかなる気がするんだ。

 

 

君のためじゃないものを探してみたけど、何もなかった。

 

 

今年ももうすぐ終わる。終わってしまう。

僕はいつまで、君を好きでいるのだろう。

満身創痍のひとり歩き

 


あああああああーーーーーーーー

青く広がる空になりたい。空を自由に飛びまわる鳥になりたい。山になりたい。春は緑になりたい。秋は真っ赤に染まりたい。森の奥をひとりで歩いて月に手を届かせたい。そんでそのまま星になりたい。

 

自分との戦い。何よりも、誰よりも、自分との戦い。絶賛戦闘中。「何も考えないこと」は至難の業です。ずーーーーっと何かしら考えています。もう頭百個あっても足りません。

 

こころの中にあるものが、なかなか変わってくれません。やっぱり、むずかしい。何年もずっと自分のこころにそいつはいて、すぐにダメダメ野郎くんになってしまう。

 

アイデンティティ的なところが、とてもむずかしい。まったく、もう、男らしくとか、女らしくとか、だれが決めたんだ。本当にもう、うんざりしちゃうね。男も、女も、いやだね!自分らしく、やで。

 

 

 

みんなが普通にできることができなくなるときがある。こころにいるそいつができなくさせてくる。

 

なんか、すべてが、怖いのです。夜空が暗すぎて、朝日が眩しすぎて、怖いのです。よく分からんけど、ただ漠然と、悲しくて苦しくなることがある。見えない何かに怯えてしまうことがある。一日の終わりに、あぁ今日もまた生きてしまったなとか思う日が続いたりする。さっきまでの元気な自分が突然いなくなって、悲しくなる。自分ではない自分が、自分をかき消してる。ずっと喉に小石がたくさん詰まってる。夜になると、その小石たちが崩れて、流れ出る。これ以上沈んだらあかん、これ以上落ちたらあかん、耐えろ耐えろ、って、なんというか、そういうのを、自分に言い聞かせることで、なんとかうわべの安定を保ってる。そいつが、自分をこんなに掻き立てて、惑わせて、地の底に陥れる。だけど、あまりよくわからない。

 


ときどき、突然すべてのことが怖くなる。目の前が真っ暗になって、頑張っていることも、楽しみにしていることも、全部どうでもよくなる。どうでもよくないのに、どうでもよくなって、もういいや、どうにでもなれ、ってそんな考えだけが、先走りしてしまう。自分を形づくるもの、そのどれかがひとつでも崩れると、途端にすべてのことが、どうしても、分からなくなる。もしかしたら、全部うそなんじゃないか、って怖くなる。傷口や涙を拭うハンカチも、誰かと繋ぐための手も、大切な人への大切なきもちも、全部失くしてしまう。きもちが沈んで、さっきまで聴いてた音楽が聴けなくなってしまう。実のところ得体の知れないそいつにこころを絞られてるのだと思う。指一本で潰せそうなくらい、強く強く削られているのだと思う。息をするのが苦しくなる。なんか、自分が何に落ち込んでいるのか、どうしてこんなに沈んでしまうのか、絶望する理由が分からない。ただただ、目の前が薄気味悪い色になって、狭く細くなっていくのだけ分かる。自分が見えなくなって、また怖くなる。眠れない夜が続いたりもする。眠りたくても、足を掴まれてるような、そんな感覚に陥ったりする。眠れたと思っても、眠れていないことがある。眠っても、怖い夢ばかり見る。

 

だけど、どれだけ暗い夜を過ごしても、それでも必ず朝はやって来る。だから、そのたびに自分を調整する。それでもし何か少しずれていたら、その軌道を修正して、もう力がないのに無理に形を整えようとしてしまう。たぶん、乱れたままだともっと怖くなるから。暗い場所、狭い場所、天井が低い場所、大きな音、大きな声、血、傷、視線、人、雨がふりしきる朝、怖いと思うものがより一層怖くなる。

 

 

そんなことが何度も起きている。


目の前が暗くなると、大切な人のことさえ全部捨てたくなる。捨てきれないくせに、捨てたくなる。全部放り投げ出して、勝手に雑になって、傷つける。自分が一番分かっているはずなのに、何度も何度も同じ過ちを繰り返す。だけど、それでも、こんな自分のことを好きだと言ってくれる人がいる。あなたといるととても楽しいよ、って何年経っても、そう言ってくれる人がいる。優しくしてくれる人がいる。必要としてくれる人がいる。受け止めてくれる人がいる。何も言わずに、ただそっと、寄り添ってくれる人がいる。それなのに、どうして自分はそんなあたたかさや優しさに応えることができないのだろう、踏みにじるようにしてしまうのだろう、粗末にしてしまうのだろう、ってよけいに悲しくなる。そして、そんな人たちのことを適当にしてしまった、その罪悪感にまた潰されそうになる。今すぐひとりひとりにあのときはごめんね、って言いに行かなければならない気がしてくる。 

 

だけど、そのくらい弱い自分なのに、それでも、ひとたび闇を抜け出せば、人に手を差し伸べることが好きになる。誰かを助けることは、きっと自分のためで、あたたかいこころでいることも、きっと自分のためで、これは、何があっても、絶対に、曲げることができないのだと思う。自分が思っているよりも、自分やあの子は大丈夫じゃなくて、だからこそ、どんなときでもそれに気づくことができる人でありたい。こんな自分でも、誰かのためにやらなければならないことがたくさんあるような気がして、自分なりに頑張ってみたいことや、味わってみたいものができたりする。だから、今もとりあえず生きてよう、誰かのために努めてみよう、ってときどきそう思えたりする。

 

 

 

新たな発見。言葉がなくとも、救える感情がある。手を繋ぐだけで、救われることがある。時間はまあまあ解決してくれる。何かと比べて、自分はどこで間違ってしまったのだろう、と落ち込むことがあるけれど、そもそも自分は元からこうであって、なにも間違っていないし、踏み外してもいないのかもしれない。すべてを上手くこなすことが、良い意味でも悪い意味でも、自分を掻き立てる。そして自身への崇高さを示してくれる。だけどそれは、ときどき自分自身を縛りつけることがある。自分と他人との考え方のギャップに、勝手にショックを受けることが多い。必ず最後に愛は勝つことは、あまりない。

 

 

なんか色々失っておりますが。

こんな自分にもくだらないことで笑いあえる人がいる。「休んだ授業のところ一緒に勉強しよう!」と誘ってくれる人がいる。許してくれる人がいる。どんなに遅くなっても、ずっと待ってくれる人がいる。「頑張らなくていい!」「ゆっくり!」「焦るな!」と言ってくれる先生がいる。何も言わずにそっとしておいてくれる家族がいる。話を聞いてくれる家族がいる。ふさぎ込んでいるときに「公園へ行こう!」「山へ行こう!」と外へ連れ出してくれる家族がいる。「歌を歌おう!」「美味しいドーナツ食べよう!」と安らぎをくれる家族がいる。「もう高校生なんだから」とか、「もうそんなことをする歳じゃないでしょ」とか、そんなことは絶対言わないでいてくれる。いくつになっても同じ目線で、変わらない心で、受け止めてくれる家族がいる。終わりの見えない、真っ暗なトンネルをくぐっていても、それでも、なにか出来事を作ろうとしてくれる家族がいる。

 

大切を大切にしたい。なにがあっても信じていきたい。

 

 

 

もうすぐ、2021年になる。せっかく一年間を頑張ったのに、また新しい一年が始まってまうんか、ってもう2021年のことが嫌いになりそう。

 

 

セカオワの深瀬さんがおっしゃっていた。

 

「頑張れていないって、頑張れていることより、すごく苦しいんです」

 

今のとこ、人生で一番胸を打たれたことば。頑張っていないときは、本当に毎日がさみしい。無乾燥で、無意味に感じる。空っぽになる。だから、どんなにしんどくても、頑張っているときのほうが何か生きる意味をもたらしてくれる。そんなふうに考える限り、たぶん頑張らない、ということは一生できない。だけど、まぁ、いつかは、頑張らないことにも意味があるのだ、とか、なんというか、そんなふうに思えるときがくるといいな、とか思ったりする。

 

 


来年は、走りすぎて疲れたら、一度どこかに腰かけたり、立ち止まったり、ほどよくブレーキを効かせながら、ぼちぼちとやっていきたい。まあ、野球でいうとダルビッシュ投手のスローカーブって感じですね。ダルビッシュ投手のスローカーブみたいに、キレと緩急をつけて走ったり歩いたりしていきたい。

 

2020年、お疲れ様やで。

 


ほなねー。👋🏻👋🏻👋🏻👋🏻👋🏻👋🏻👋🏻👋🏻👋🏻👋🏻👋🏻

 

 

 

無題2

 

 

小暑。夏がはじまる。恋焦がれた我が身を燃えあげるような、あの暑さを乗り越えるには、やっぱり君が必要だった。

 


ここにあの記憶を残してから、ちょうど半年くらいの時間が経つ。ずいぶんと時が過ぎた。あれからまた、僕の心もずいぶんと起きたり伏せたり、言葉では上手く表現できないけれど、とにかく激しいものだった。

 

 

どんなに痛みを負っても、何も学ぶことができない。「好き」が全てを忘れさせる。わずかな希望がさらに僕を苦しませる。まだ頑張れる、まだやれる、どこかでそう思うから、余計にしんどいんだ。もういっそ、こんなもんだって割り切れたら、どれだけ楽だろう。

 

 

 

 

 

 

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二年生が始まって一ヶ月が経つ。初めての定期試験がやって来る。試験期間は、放課後に毎日誰かと教室で勉強をする。何も言わないけど、黙っているけど、僕は、放課後、君と一緒に勉強がしたい。

自分の口からは、とても誘い出せなかったけれど、友達が君を誘ってくれた。おかげで、君も一緒に勉強することになった。やっぱり君がいるだけでもう何でもできる気がする。苦手な数学だって化学だって、何でもできる気がする。君は、僕の二つ後ろの席でワークを解いている。集中できない。できるわけがない。すぐ後ろに君がいるなんて。ノートと睨めっこしながら、僕は、君のことで頭がいっぱいになる。

 

次第に集中力がなくなって、口だけがよく動くようになる。勉強は捗らない。だけど、それでいい。それがいい。君と話していられるなら、なんでもいい。君の声をずっと聞いていたい。

 

帰り道、リュックを背負う君の姿を、久しぶりに見た。胸が張り裂けそうなくらい高鳴るのを感じる。せっかく近くにいるのに、上手く話せない。話したいことがたくさんあるのに、言葉が出ない。

 

前を歩く君の髪を見ていた。長くてやわらかい髪。触れたい。でも、だめだ。もし欲望に負けて、君のもとへ飛び込んでしまったら、きっと全てが終わってしまう。

 

 

 

 

 

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気持ちというものは、どうしてこんなにも、何度も何度も移り変わっていくのだろう。

 


定期試験が無事に終わった。どうしてか、君への想いも、呆気なく終わりそうだ。

最近、君の冷たさを感じてしまうようになった。いつからか、君の前を通っても、何もできなくなった。名前を呼んでくれない。近くにいても誰もいないみたいに、そんなふうに君は僕の前を通り過ぎる。

 

どうして、どうして、どうして。もしかして、こないだの電話でまた君に想いをぶつけてしまったからかな。もう嫌われてしまったかな。どうなんだろう。もう分からない。全く分からない。分かりたくない。


でも、分からないといけない。君の冷たさのわけが知りたい。

 

夜の電話。「君がはっきり言葉にしてくれないと、僕はどんどん崩れてしまう」。そう伝えても、君の言葉はまだ曖昧だった。あぁ、もう、もし今夜だめだったら、もうこれで終わりにしよう。終わりにしたい。忘れないといけない。だけど、こんな生半可な焦りは、かえってまた同じ失敗を招くだけだった。 

 

 

 

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同じクラスの子。今度こそ、絶対に好きになれた。つもりだった。毎日必死に目で追った。つもりだった。だけど、どうやら、やっぱり違ったらしい。また一年前と同じだ。それはただ、君への想いを忘れるための口実でしかなかった。君への想いから逃げようとしただけだった。

 


君を想うことが、しんどい。苦しい。それならいっそ、もう全部なかったことにしたい。全部なかったことにされたい。そう思ったけど、そんなわけがない。全部なかったことにされるのは、もっと苦しい。自分なりにずっと考えて、ずっと頑張ったことを全部なかったことにされるのは、とても苦しい。だけど、これをどうすればいいのか、全くわからない。君のことが全くわからない。

 

 

しばらくの間、君とは話さなくなった。

 

 

 

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文化祭がやってきた。君は、ダンスを披露するらしい。できれば、君の踊っている姿はもう見たくなかった。もし見てしまったら、きっとまた心が爆発する。

だけど、残念ながら、体は素直だ。気づいたら、舞台の前の客席に座っていた。いや、でも、あくまでも、僕は、君以外の子を見るためにここに来た、別に君を見るために長蛇の列に並んだわけではない、そう自分に言い聞かせた。

 

だけど、だめだ。全然、だめだ。結局、視線の先はいつも君だ。君の踊る姿が何よりもきれいだ。一番可愛い。どうしようもなく好きなんだ。分かっていたけど、やっぱり心が爆発する。感情を見失いそうになる。心のうちに抱く全てを奪われる。

 

 

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僕の心がまた爆発しても、君の冷たさは変わらなかった。君はこんなにも僕のたくさんを奪うくせに、奪ったものを返してくれない。そのままどこかへ放り投げてしまう。

文化祭の日。それからの休み時間。廊下ですれ違ったとき。もう見向きもしてくれない。僕は、君の冷たさを感じるたびに、どうしようもない現実の冷たさを痛いほど感じた。

 


それでも、そんな現実でも、まだ諦めきれない自分がどうしてもいる。どうしても声が聞きたくなる。欲しくて、欲しくて、おかしくなる。だから、電話をしてしまう。奪われたものを取り戻したくて、言葉を交わす。だけど、やっぱり、君は前とは違う。冷たい。結局、話は弾まない。

 

 

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また、定期試験がやって来る。君が金曜日の放課後、教室に残って勉強するって言うから、僕は月曜日からその日まで、何でも頑張れた。頑張った。そして、その日がやって来た。

 

だけど、君は何も言わずに帰ってしまった。

 

頭が真っ白になった。目の前が一気に暗くなる。もう何も分からない。ずっと楽しみにしていたのに。募り続けた僕の楽しみは、いったいどうなるの。どこへ行くの。

 


自分勝手な悪口を言おうと思う。君の悪口を言おうと思う。

君は、いつもそうだ。僕がいつも僕のなかの何かを犠牲にして、君のためだけにずっと積み重ねてきたものを、君は、ほんの数秒で簡単に崩す。指一本でボロボロにする。だから、僕は、もう何もできない。何もできなくなる。

 

もうどうでもいいや。どうでもいいけど。

 

 

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君の夢を見た。ここ一週間、毎日君の夢を見る。君がずっと手を握ってくれる夢。あれから、君のことなんてどうでもいいと思っていたけれど、どうやら、夢というのは、潜在意識らしい。それは、時に予知夢のような、現実的な夢を見せてくれるらしい。だから、最近の夢は、僕の潜在意識が見せたものらしい。そして、「夢が叶う夢」を見たら、その夢は、現実になるらしい。なにを言いたいかというと、僕が叶えたい夢は、君が手を握ってくれることらしい。そんなことを知ってしまった。

 

そうだ。君のことなんてどうでもいい、そんなこと思うはずがない。

 

空気の漏れかかる気持ちの歯車に再びエンジンがかかるのを感じた。

 

やっぱり、声が聞きたい。

電話をする。君のせいで負った傷が君の声で癒されるなんて、おかしな話だ。
もしあれが本当に予知夢なら、あと少しで、君とひとつになれるのだろうか。夢から大きな自信を得てしまった。

話が弾むようになった。こんなに楽しく話すのは、いつぶりだろう。こんなに自然に話せるのは、いつぶりだろう。こんなに上手く話せるなら、また直接話したい。直接笑いたい。直接君の心に触れたい。次々と欲が溢れる。夢から得た大きな自信を武装した僕は、その欲をすぐに叶えることができた。

 

 

 

 

 

 

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晩秋。秋の終わり。
君と直接話すのは、五ヶ月ぶりだ。目が合うことすら、久しぶりに感じる。すごくすごく嬉しい。持ち合わせた言葉では言い表せないくらい。目の前が明るくなる。

 

今までの冷たさは幻なのかもしれない。

よく廊下で話すようになった。楽しそうに話してくれる。僕のくだらない話に、目の前で、耳を傾けてくれるのは、いつぶりだろう。君のくだらない話を目の前で聞くのは、いつぶりだろう。君の笑顔を目の前で見るのは、いつぶりだろう。

 

いける気がする。やれる気がする。


電話をするのももう簡単だ。もう何でもできる気がしている。気がつくと、また前と同じように話していた。

だけど、やっぱり、話せば話すほど、どんどん想いが募ってしまう。また伝えてしまう。

なんだかもう重すぎて、抱えきれなくなった。僕が想いをぶつけたら、君は困って、黙り込んでしまうことなんて、もう痛いほど知っているのに、僕だって、その難しさを何度も味わっているのに、それでも言ってしまう。全部言ってしまう。言いすぎてしまう。

せっかく積み上げた幸せを自分の手で崩してしまう。

 

また埋めたはずの溝が現れた。そんなときに偶然、君にまつわるあれこれを耳にした。あの子も、その子も、どうやら、君に想いを寄せているらしい。でも正直そんな類の話は、聞き慣れていた。君のことだから。だから耐えることができた。今までは。

でも、もうだめだった。君が他の誰かのものになるなんて、やっぱり耐えられない。絶対に耐えられない。

 

 

 

 

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限界だった。今まで以上に気持ちが起きて伏せて、溝ができて埋まって、それでもなんとか溺れずに息をしていたつもりだった。だけど、もうだめだった。息ができなくなった。


だから、もう、また、また、また、伝えた。これ以上、君が僕から遠ざかるのが、怖かった。これ以上、君が僕から離れていくことが耐えられなかった。

 

思い切って電話をする。「今から会いに行ってもいい?」。もう夜になるというのに。

 

僕は、すぐに自転車を走らせた。ペダルを強く強く漕いだ。無心だった。イヤホンから流れる音楽が、頭の中を駆け回る。君を離したくない。

 

君の最寄り駅。改札の前。

「今から何を言うか、もう分かるでしょ」。

そう言うと、君は笑った。

 

「付き合って」。こんなに真っすぐな言葉、初めて口にした。だけど、もう僕が伝えたいのは、これだけだった。これを伝えることさえできれば、返事は何でもいい。期待もしていない。君を離さないための言葉だった。

 

「やっぱり友達のままでいたい」。

君からの返事は、変わらずこうだ。君は、「自分は人を好きになることができない」と言って、下を向いていた。だけど、僕は、そんな君を見ることが、足元を見る君の姿を見ることが、とても悲しい。だから、「下を向かないで」、それだけ言った。

 

君に会うと、やっぱり安心して、僕のそばにいる気がして、楽になる。勝手に口が動いて、話が弾んだりする。

 

冬の訪れ。こんな季節になると、人肌が恋しくなる。そんなことを話して、君の手を握った。君は、僕の手を握り返してくれた。君の手は、白くて、柔らかくて、とても綺麗だ。「少し歩こう」、そう足を踏み出して、また手を繋ぐとき、君は一瞬、指を絡ませようとした。それがどういうことかは分からなかった。駅のロータリーには、もうイルミネーションが飾られていた。光の中で手を繋いで少し歩く。君と僕で。

 

どうやら、自分なりに努力をすれば、予知夢であってほしいと願ったものを、本当に予知夢にすることはできるらしい。

 

雨が降ってきた。小粒の雨が君の髪を濡らす。僕は、その柔らかい髪に触れる。髪いっぱいに広がる小さな水滴は、月の光に照らされて、麗しく光っている。それは、ここから見えるイルミネーションより、ずっとずっと綺麗だった。

 

ずっと一緒にいたい。

 

「ありがとう」。最後にそれだけ伝えて、僕は、自転車を走らせた。ペダルを強く漕げば漕ぐほど、雨もまた頭に打ちつけるように強くなった。傘はない。辺りはもう真っ暗だ。イヤホンから流れる音楽が、頭の中を駆け回る。自転車と音楽、そして、雨。映画の主人公になった気分だった。それは、人生で一番、気持ち良くて、冷たくて、あたたかい雨だった。

 

 

 

 

 

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映画の主人公は長く続かない。頓馬な僕は、時間が経つと、たしかに感じたはずの幸せを、すぐに疑ってしまう。また、何度でも分からなくなる。

 

君のことが好き。好きで好きで仕方がない。
だけど、君のことが怖い。とても怖い。ずっと怖い。君と時間を共にすればするほど、どんどん君のことが怖くなっている。


だから、君ではないあの子の安心感に甘えている。あの子といるとき、自分のなりたい自分でいられるような、そんな気がしている。

 

だけど、これもまた、君を忘れるための口実なのかもしれない。君への想いから逃げるために、無理につくった気持ちなのかもしれない。それとも、今回ばかりは、これまでと違って、本当の気持ちだと思っていいのかな。でも、たとえそうだとしても、こんな僕に、君かあの子か選ぶ権利なんてない。

 

でも、考えたい。

街を照らす光を見るとき、隣にいてほしいのは、誰だろう。
暖炉のある暖かい部屋で、映画を一緒に観たいのは、誰だろう。
唇を噛み締めて、少し目を逸らして、ずっと手を繋いでいたいのは、誰だろう。

 

やっぱり、考えれば考えるほど分からない。

 

それでも、一つだけ確実なものがあった。

朝、目が覚めて、最初に頭に浮かぶのは、君の顔だ。夜、目を瞑る時、瞼の裏に浮かぶのは、君の顔だ。会いたいのは、いつも君だ。

 

結局、何度考えても、そうだ。

 

君以外の人を好きになろうとすることは、結局、ただの逃げ道だ。

 

 

 

 

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また定期試験がやって来た。

 

君と話したいから、放課後、君と二人きりで勉強をした。幸せだった。帰り道、手を繋ぎたかった。だけど、できなかった。

 

改札を抜けて、別れの言葉を交わす。 

 

「今日はありがとう。勉強頑張ろう。じゃあまた明日。またね。バイバイ」

 

突然だけど、今のところ、これが君と交した最後の言葉だ。

 

 

あれから、何も変わらないまま、時間だけが過ぎていく。

 

 

ちっぽけな僕は、何も考えていなかった。君の気持ちなんて、ずっと何も考えていなかった。ただ自分の気持ちを君に投げつけることだけに執着して、受け止める君の気持ちなんて、ずっと何も考えていなかった。


君の見える部分には敏感なくせに、見えない部分には全く気づいていなかった。

 

でも、それでも、全てが思い通りにいくとは思わないけれど、話せないことはさすがに悲しい。悲しすぎる。

 

もういっそ全部忘れたい。そんなふうに思うんだけど、思い出すのは今日も君のことばかりだ。

 

会いたくないけど、会いたい。話したくないけど、話したい。


全く分からない。君のことも自分のことも。知らないんじゃなくて、分からないんだ。知っているけど、分からないんだ。


勝手に好きになって、勝手に苦しんで、勝手に想いを告げて、勝手に泣いて、本当に馬鹿みたいな話だ。

 

この痛みを治す薬があるのなら、君が処方してほしい。

  

もし僕が裁判長になれるなら、僕を苦しませた罪で君のことを裁くだろう。
もし僕がバンドマンになれるなら、君への想いだけで音楽を作るだろう。
もし僕が君の一番になれるなら、君のことを世界で一番幸せにするだろう。


君に出会ってから、苦手なラブソングがやけに近く感じる。あのバカげたラブソングの、嘘みたいな恋愛映画の、ヒロインに重ねてしまうのは、いつも君なんだよ。

 

これから先、どんなことがあろうと、僕の高校生活は、もう全て君だ。

 

僕の全てを君に託して、もう空っぽになってしまいたい。ボロボロになってもめげない自分が大嫌いだ。

 

君のことがこの世で一番大嫌いなのに、君のことが好きで好きで仕方がない。
君のことがこの世で一番怖いのに、君のことが好きで、好きで、好きで、好きで、もうわけが分からない。頭を悩ませる力ももうない。


早く「好き」じゃなくて、「好きだった」と言えるようになりたい。


これから先、誰に出会おうとどんな恋をしようと、その度に僕は君を思い出して、また苦しくなる。

 

もし、君を好きでいることがこんなに苦しいことだと分かっていても、僕はまた君のことを好きになる。

 

誰かのことをどうしようなく好きになることの喜びと苦しみ、誰かのことをどうしようもなく好きになると、どうしようもなく苦しくなること、でも、それが実りそうになると天に昇るほど嬉しいこと、全部君が教えてくれた。